相続した土地の放棄(国庫帰属)制度の新設について

現在開催されている国会(第204回国会)で、相続した土地の所有権を放棄することができる「土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度」(以下では、単に「国庫帰属制度」といいます)に関する法案が審議されています*1。今後の国会での審議の結果、この法案が成立した場合、法案成立からおおよそ2年以内*2に、一定の要件を満たした場合、相続した土地の所有権を放棄し国の所有とすることができる国庫帰属制度が始まる見込みです。

〔2021年4月22日追記〕

相続登記の義務化や土地の国庫への帰属制度に関する法案が4月21日に成立しました。一部報道によると、2023年をめどに相続した土地を国庫に帰属させることができる制度が始まる予定です。


新制度の誕生の経緯

現在の制度では、土地を所有している人は土地の所有権を放棄して国の所有とすることはできません。このため、相続などで土地を所有することになったものの特に使い道がなく売却も難しい場合であっても、放棄することができないため管理に関する様々なコストを負担し続ける必要がありました。このような状態になることを避けるために、そもそも相続登記をせずに昔の所有者の名義のまま放置されることも起きており、このことも所有者不明土地問題の原因の一つとなっていると指摘されています。

こういった問題の対策の一つとして考え出されたのが、相続によって所有することになった土地の所有権について所有者が放棄し国の所有とすることができる国庫帰属制度です。所定の条件を満たせば、この制度を利用することで、相続したものの必要としない土地の所有権を放棄することができるようになる見込みです。


土地所有権の国庫帰属制度の概要

現時点で想定されている国庫帰属制度の概要(手続きのおおまかな流れ)は次のとおりです。

  1. 相続又は遺贈により土地の所有権を取得した人は、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて、法務大臣に承認を求める申請を行います。
  2. 法務大臣は申請を審査し、一定の要件(下記)を満たす場合には、その申請を承認をします。なお、審査では担当機関の職員が現地調査を実施することもできます。
  3. 承認後、申請した人が土地の管理費用(10年分)を収めた時点で、承認された土地の所有権は国庫に帰属します。

国庫帰属の承認に必要な要件

土地の所有権の国庫への帰属の申請がされた場合、対象となる土地が次の要件のいずれにも該当しない場合は、承認しなければならないとされています。例えば、建物が残っている土地は要件1に該当しますので、申請は却下されることになるものと思われます。また、審査の際の調査に正当な理由なしに応じないことも申請が却下される理由とされる予定です。

  1. 建物の存する土地
  2. 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
  3. 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
  4. 土壌汚染対策法第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
  5. 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
  6. 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
  7. 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
  8. 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
  9. 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
  10. 1から9までに掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

これらの要件に該当していることを知りながらそれを告げずに承認の申請を行った場合で、それにより国に損害が発生した場合、申請した人はその損害を賠償する責任を負うことになります。また、偽って申請し承認されたことが判明した場合には、承認を取り消すことができるとされています。


国庫帰属制度の詳細は今後決定される予定

申請が承認される具体的な要件や手続きの手数料、承認後に収める負担金の金額など、国庫帰属制度の詳細は、法案成立後に順次決定されてくると思われます。この制度の利用に関して司法書士がどこまで関与できるのかはまだ明確にはなっていませんが、千葉司法書士事務所では、法律の改正や制度の変更にもしっかり対応しながら、お客様の相続登記のお悩みの解消のお役に立てればと考えております。


参考情報

「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」

http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00049.html

(外部ウェブサイトのページが開きます)

※23ページから25ページが相続した国庫帰属制度に関する部分となります。

議案の審議経過

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DD1FBE.htm

(外部ウェブサイトのページが開きます)

※4月1日に衆議院で全会一致で可決され、今後参議院で審議される予定です。


補足

*1:本ページに記載されている情報は、本ページ作成日(令和3年4月7日)時点で公開されている各種情報を基にしたものとなります。今後の国会での審議結果などにより、本ページ記載の情報とは異なる形で制度が運用される可能性がありますので、実際に手続きを行う際は、最新の情報の調査や行政機関や専門家への確認などを行ったうえでご対応ください。

*2:土地所有権の国庫帰属制度に関する法律は公布の日から2年を超えない範囲内の日に施行される予定です。